ストロークに重要なのはキューをまっすぐに出すことだと思っている人が多いようです。しかしこれは誤解、いや間違いです。

キューがまっすぐ出ないことは、的球をポケットできない理由ではありません。

そもそも、人間の身体の構造から言っても、キューをまっすぐに出すことはほぼ不可能なのです。キューをまっすぐに出すことに固執して、あれだこれだとフォームの改造を試みる人もいますが、たいていは見た目が不格好で奇妙なフォームが出来上がってしまいます。確かにキューをまっすぐに出すことができれば、あとは狙いの精度を高めるだけでシュート力が増すかもしれません。しかし、できるはずのないことを追い求めた結果、体勢に無理のある奇妙なフォームになってしまっては本末転倒です。

フィリピンのプレイヤーに多く見られるのが、キューを突き出す瞬間に放り投げるようにするストロークです。これもキューをまっすぐに出すための工夫なのでしょうが、真似することはおすすめしません。彼らの多くは幼少の頃からプレイをしており、小さな身体を補うために独特のテクニックを自然と身に付けています。つまり、必要に応じて体得したものなのです。これを真似することに特別な意味は見出せません。余計な力を抜いて、スムーズなストロークさえできれば、キューをまっすぐに出すことを必要以上に気にすることはないのです。

プロを含め、上級者が球を撞く様子を真後ろから見てください。確実にまっすぐキューを出せる人はほぼ皆無です。ではなぜ、無理なく確実に的球をポケットへ運べるのでしょうか。それは、撞点すなわち、手球の撞くべき点を的確に捉えることに集中しているからです。そのことにキューをまっすぐに出すことは前提となっていません。ただスムーズなストロークと、撞点を捉える集中力によって、狙いに向かって正確に手球を放つことができるのです。これは、日々の練習の積み重ねでシュートの感覚を養えば、誰にでもできることです。

キューがまっすぐ出ないことなど気にせず、自然なフォームでスムーズなストロークができるよう練習し、手球の撞点を的確に捉えるよう意識しましょう。そして、とにかく数多く球を撞くことです。人間の感覚というものは、想像以上に優れています。何度も何度も経験して身体に学習させることで、シュート力は確実に向上します。感覚を磨くのです。「勘」を身に付けると言ってもいいかもしれません。一度身に付いたシュートの勘は、日々ビリヤードに接してさえいれば、簡単に忘れることはありません。辛抱強く、繰り返し繰り返し球を撞き続けることが上達に欠かせない最も重要な要素です。

シュート力が身に付けば、キューがまっすぐに出ているかどうかなど気にする必要がなくなります。そもそも、無理のない自然なフォームであれば、ビリヤードに必要なストロークは十分に可能なのですから、キューがまっすぐに出ているかどうかではなく、いかに手球の撞点を捉え、いかに狙いの精度を高めるかということにこそ注意を向けるべきだと言えます。